ーA Wig of Curseーstage 2ー

 ピコン、と聞こえた軽快な音に顔を上げるとアーニャが携帯電話を構えていた。
「な....なんだ?」
「3回目。」
「へ?」
「溜息の数。」
 わかりやすいから、という理由で指定された待ち合わせ場所は政庁の一角にあるカフェテラスだった。一般にも解放されているそこは様々な客で賑わっている。その中になぜかついてきたアーニャがピコピコと携帯電話をいじる音が聞こえた。
「...スザクが口きいてくれない。」
「当然。」
 一刀両断の答えにがくり、と首が折れた。あれ以来口どころか目も合わせてくれない。たまに目が合えば恐ろしいぐらいに睨まれる。不可抗力だ、と言っても今の彼には聞く耳も無さそうだ。
「皇女殿下には『お兄様をお願いします』って言われてるしさぁ.....これも任務って思うしか無いよなぁ。」
「嫌?」
「.....じゃない。」
 実はそれなりにわくわくしている。何しろ、画面越しに見た「彼女」は美しかったのだ。本来ならブリタニアの至宝と言ってもいい存在を、なんだかんだで独占しているスザクをなんとはなしに羨ましく思わなかったと言えば嘘になる。謎の幽霊を成仏させるまでとはいえ、その役割を代われるなど滅多に無い機会だ。楽しまない手は無い。ただ、その代償があの殺気立った視線だということだ。
「いやぁ...ある意味命がけだなぁ。」
「来た。」
 それじゃあ、とアーニャが席を立った。意外に気が回るんだなぁ、と思っていると周囲がざわっ、とどよめいた。
「え?」
 テラスの前に停まった車から顔の半分を仮面で覆った男が降り、後部座席の扉を開ける。そこから緑の髪の少女に続いて降りた少女に周囲の視線は釘付けになっていた。
(...おいおい)
 それはどこから見ても完璧な美少女、だった。すらりと華奢な長身に深い青のワンピースがよく似合う。白いコートの背に流れる優美な黒髪、控えめな化粧がきめ細やかな肌を一層際立たせ、長い睫毛の奥の瞳はまさに希有な紫水晶の輝きを秘め
 その瞳が思わず立ち上がったジノを認めた途端、きらりと輝いた。
(え?あの、ちょっと??)
 それは端で見ていた者にしてみれば、さながら映画の1シーンのように思えただろう。
 冬の青空の下、まっすぐに駆け寄る美少女を受け止める金髪の美青年。これは何かの撮影かと、思わずカメラを探した者がいたほどだ。
「....会いたかった。」
「え?え?あ、あ、はい、そりゃ私も会いたかったですよ殿下。」
「ルルと呼んで下さい。昔みたいに。」
「へ?」
 んなことしたらスザクに殺される。
 そんな胸中も知らぬ気に、少女は涙に潤んだ瞳で微笑んだ。
「留璃子、ってブリタニアの方には言いにくいでしょう?だからそう呼んで下さい、って言ったじゃないですか。」
「あ、あー....はい、そうでしたね。」
 許せスザク。不可抗力、不可抗力。
「あ...会いたかったよ。ルル。」
「私も...」
頬を染めてひしとしがみつく少女に、何となく先日のスザクの胸中を察した。成程、これは著しい理性との勝負に違いない。
「....はいちょっと。すっかり浸ってらっしゃるとこ悪いんだけど。」
 ごほん、という咳払いに見ればカレン、C.C.、ジェレミアの冷ややかな視線があった。
「え?あ、何?」
「何、じゃないわよ。いい?とにかく目的は成仏!だからね。わかった?」
「まぁ要するに、お前は彼女の頼みを聞いてやればいい。簡単だろう。抱きしめてやるなりキスするなり好きにしろ。」
「ちょ、C.C.!!!」
「成仏させればいいんだろう。固いこと言うな。別に枢木に操を立てろと言うわけでもあるまい。」
衆目を集めながら恐ろしい事をさらさらと口にする少女に、これは確かに魔女だ、と密かに思った。
「.....ヴァインベルグ卿。」
「は、はい?何か?ジェレミア卿。」
「....我が君の御身をなにとぞよろしくお願いいたします。」
「....はい。」
 そんな殺気だった顔で言われても。
「よし。じゃあ行ってこい。宿泊可だぞ。やむを得ん時はな。」
「C.C.!!!」
 魔女に背を押され、歩き出す二人を周囲の視線が寒暖様々に見送っていた。



 街を行きかう人々は、誰もが一度は振り返った。片や均整のとれた長身に、仕立てのいいジャケットをラフに着崩した金髪碧眼の美青年。片や白いコートと青いワンピースの裾を優雅に翻すのは黒髪に紫の瞳の美少女。恥ずかしげに身を寄せる少女に青年が何事かを話しかけ、少女は嬉しそうに微笑む。顔を見合わせ笑い合う二人の姿はどう見ても仲睦まじい恋人同士でしかなかった。
「....なかなか上手くやってるじゃないか。調子が出てきたな。」
「....あのさ。別に私達、見張ってる必要ないんじゃない?」
 コーヒーショップで客と店員に注目されながら和やかに語り合う二人を遠目に見ながら、ふふふ、とほくそ笑むC.C.にカレンは溜息をついた。
「まぁいいじゃないか。見てみろ、あの顔。いい笑顔じゃないか。」
「あのねぇ....笑ってんのはあの幽霊でしょ。」
「それだけ成仏が早まる。結構なことだ。」
 と、携帯電話がメールの着信を告げた。見ればディートハルトから。調査内容の報告らしい。
 内容は幽霊となった少女の身の上についてだった。

 彼女ーーーー留璃子は東京に暮らす普通の少女で、もともと体が弱く病気がちだったようだ。どういった切欠でブリタニア人の恋人と知り合ったのかは不明だが、当時日本とブリタニアはそこそこ国交もあり、そう険悪というわけでもなかったので、まぁそういう機会もあったのだろう。だが結局彼女は21歳の若さで世を去り、悲しんだ家族はせめての形見にと、長く美しかった彼女の髪でかつらを作った。それはその後も長く彼女の家で大事に保管されていたらしいが、先のブリタニアとの戦争で一族は離散し、かつらも家財共々人手に渡ってしまった。不気味な噂が流れ始めたのはそれからだという。
 かつらのある部屋から夜な夜な女の鳴き声が聞こえる、長い髪の幽霊が現れる、所有者の家族が病気になるetc.
 かつらは次々と人手に渡った。そしてネットオークションに出されていたのをC.C.が落札した、というわけである。
「.....なるほど。聞けば哀れな身の上だ。」
「う...うーん...あ、それで相手の男のことは?」
「まだ調査中らしい。」
 ちら、と目を向けると二人は席を立ちどこかへ向かおうとしている。行くぞ、とC.C.が立ち上がる。カフェラテの残りを慌てて飲み干し、カレンも続いた。





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しかし桁違いにでかいカップルでしょうね。







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