Sweet my Angel-scene1-
その子に初めて会ったのは、寒い寒い冬の日だった。
母親のいない自分をいつも可愛がってくれる、近所の大きな家のお姉さん。(おばさん、と言うと笑いながら怒るけど、実際年齢不詳の綺麗な人だ)いつも元気で時には自分の剣道の相手さえしてくれていたその人が、なんだか最近静かになった、と思っていたら、段々おなかが大きくなってきた。太ったね、と言ったら笑いながら拳骨を落としたその人はこう言った。
「もうすぐうちに天使が来るのよ」
そう言ったその人は、見たこともないほど優しい顔をしていた。
「スザク君、そしたらあなたがその子を守ってあげてね。」
よくわからないまま、自分はぼんやりと頷いていた。
それからしばらくして、滅多に会わないその家の御主人と一緒に大きな車に乗ってどこかに行ったその人は、数日後小さな包みを大事そうに抱えて戻ってきた。
おかえりなさい、と玄関から挨拶をすると、にこりと笑って、
「ほらルルーシュ、あなたの騎士様よ」
包みにそう話しかけたその人は、軽くかがんで包みの中を見せてくれた。そのとたん、自分は従妹が持っていた絵本の挿し絵を思い出していた。
白いおくるみの中ですやすや眠る小さな小さな赤ん坊。真っ白な肌と真っ黒な髪。ぷっくりとしたほっぺはピンク色。赤ちゃんなのに睫毛がすごく長くて、きゅっとにぎった手はマシュマロのようで。
かぐや姫みたいだ。
竹の中で光っていたというおとぎ話の中の赤ちゃん。同じ名前なのにやんちゃな従妹との違いを指摘したら喧嘩になったが、この赤ちゃんはまさに竹の中で光輝いていたという姫君そのものに思えた。
「これからよろしくね。可愛がってあげてちょうだい。」
そう言われて、ぼんやりとその子にみとれていた自分ははたと我に返って、何度も頷いた。そして
「マリアンヌねーちゃん!俺、この子嫁さんにする!!そして絶対、絶対、一生大事にするから!!!」
思わず叫んだその言葉に、なぜかしん、と沈黙が降りた。ぱちくり、と目の前の美しい人は目を瞬かせ、後ろで黙って様子を見守っていた御主人はなんだか顔色を変えたようだった。どうしたんだろうか。
と、ぱちり、と赤ちゃんが目を開いた。紫色の綺麗な目。きっとまだ綺麗なものしか見たことがないからだと思うほど、透き通った瞳はこの世のどんな宝石よりも美しく思えた。
と、その目がふる、と揺らいだかと思うと、ぴゃあぁぁぁ、と子猫のような鳴き声があがった。どうやら驚かせてしまったらしい。ごめんね、と言おうとした途端、
「なぁぁぁぁぁあああんたるぅぅう愚かしさぁああああああ!!!!!」
自分の声など比較にならないほどの大音声が響きわたった。
その子が男の子だと知ったのは、それから少したってからだった。
ぱち、と目を覚ますと じり、と鳴りかけた目覚ましを止めた。壁のカレンダーに目をやると、真っ先に今日の日付が目に飛び込んだ。
12月7日。
13年前、ルルーシュに初めて会った日だ。
あの頃7歳の子供だった自分も今年で大学二年になる。毎年一緒に祝っていた誕生日も、これから就職したりするとちょっと難しくなるかもしれない。なんとか時間は作るつもりだけど、新入社員のうちはそうわがままも言えないだろう。
だから今年はささやかなサプライズを仕掛けることにした。
不意打ちに弱いルルーシュは驚くかもしれない。でもきっと喜んでくれるだろう。
よし、と決意を新たにベッドを降りた。
朝日の射し込むキッチンに降りると、ふんわりと味噌汁のいい匂いがする。どうやら今日は和食の日らしい。
「おはよう。」
コンロの前に立つルルーシュに声をかけると、ちら、とこちらを見てぽそりと おはよう、と呟いた。不機嫌な様子に困ったように微笑んで おはようございます、と代わりのように挨拶してくれたのは女中の咲世子だ。この数日ですっかりおなじみになってしまった光景に思わず苦笑が漏れた。
ルルーシュの両親が仕事で海外へと移ることになったのは1年前だ。その話を聞いたときの衝撃は今も覚えている。まさか 行かないで、なんて言えるはずもなく、こうなったら自分も入ったばかりの大学を休学して、海外留学を検討しなくては、なんて真剣に考えていたら、ルルーシュは日本に残る、と言い出した。
ルルーシュを溺愛しているお父さんは当然反対したけれど、ルルーシュの決意は固かった。結局
「じゃあスザク君、ルルーシュをよろしくね」
というお母さんの一言で、ルルーシュは自分の家に居候することになったのだった。
「今お魚を焼いておりますので、お掛けになっていてください。」
「うん。ありがとう咲世子さん。」
そう声をかけるとちら、とこちらを見たルルーシュはしかしじきにそっぽを向いてしまった。いつもなら甲斐甲斐しく食器を出したりしてくれるのに、よほど機嫌が悪いらしい。
それも仕方ないかもしれない。なにしろ最近自分が出かけることが多くて、あまり話もできないでいる状態だ。今年飛び級で一気に高等部に入ったルルーシュはまだ親しい友人もあまりいないようで(なにしろ周りは3つも上なのだし)、寂しいに違いない。それなのに幼なじみの自分さえあまり相手になってやれないのでは、拗ねるのも仕方ない。
「ルルーシュ」
咲世子の隣で味噌汁の鍋に向かっているルルーシュに声をかけると、ぴく、と細い肩がわずかに震えた。
「あのね、今日だけど」
「遅くなるなら夕食は済ませてきてくれてかまわない。俺も図書館に行くから、外で済ませてくる。」
「え?でも」
「夜食が必要なら今のうちに咲世子さんに頼んでおけ。」
とりつく島もないとはこのことだろう。何か言いたげな咲世子に いいんです、という意味で首を振った。
仕方がない。とりあえず、今日までの辛抱だ。
「じゃあバイトに行ってくるね」
朝食を終えると、カバンを手に立ち上がった自分に 行ってらっしゃいませ、と咲世子が頭を下げた。けれどもルルーシュはやっぱり視線を合わせてはくれなかった。
アルバイトを終えると、早くも日が陰りはじめていた。12月に入った街はどこもクリスマスのイルミネーションに彩られている。楽しげな音楽があちこちから聞こえてすっかりお祭りムードだ。
去年の今日は一緒に街のイルミネーションを見に行った。綺麗な紫の目をきらきらさせていたルルーシュは楽しそうで、連れてきてよかった、と嬉しくなった。けれどもすれ違う人達がイルミネーションよりもルルーシュを見るのが最近は気になってしかたがない。
子供の頃からルルーシュはとにかく綺麗で、家も資産家だったから、はっきり言って変な連中がからんでくることなんて珍しくなかった。そいつらを蹴散らすのはいつも自分の役目だったのだ。
「すざくはおれのきしだ。」
きっと母親に教わったのだろう、そう言って無邪気な顔で自分を見上げていた小さなルルーシュ。そんな目を向けられるのが少しだけ辛くなってきたのはいつからだろう。
違うよルルーシュ。本当の騎士は僕みたいに勝手なことを考えたりしないんだよ
ぶんぶん、と頭を振って再び歩き出す。早く行かないと。
今年は準備に手間がかかったせいでルルーシュに寂しい思いをさせてしまった。果たして機嫌を直してくれるだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて見慣れた建物が見えてきた。窓に明かりがついていることを確かめて入口をくぐった。
どうか無事にできあがってますように、と祈りながら。
.....................................................................
久々の更新でございます。
ルル誕記念として前後編でお送りします。
考えてみたらやったことなかった年の差
幼馴染みシリーズ(笑)。
どうなりますやら。
母親のいない自分をいつも可愛がってくれる、近所の大きな家のお姉さん。(おばさん、と言うと笑いながら怒るけど、実際年齢不詳の綺麗な人だ)いつも元気で時には自分の剣道の相手さえしてくれていたその人が、なんだか最近静かになった、と思っていたら、段々おなかが大きくなってきた。太ったね、と言ったら笑いながら拳骨を落としたその人はこう言った。
「もうすぐうちに天使が来るのよ」
そう言ったその人は、見たこともないほど優しい顔をしていた。
「スザク君、そしたらあなたがその子を守ってあげてね。」
よくわからないまま、自分はぼんやりと頷いていた。
それからしばらくして、滅多に会わないその家の御主人と一緒に大きな車に乗ってどこかに行ったその人は、数日後小さな包みを大事そうに抱えて戻ってきた。
おかえりなさい、と玄関から挨拶をすると、にこりと笑って、
「ほらルルーシュ、あなたの騎士様よ」
包みにそう話しかけたその人は、軽くかがんで包みの中を見せてくれた。そのとたん、自分は従妹が持っていた絵本の挿し絵を思い出していた。
白いおくるみの中ですやすや眠る小さな小さな赤ん坊。真っ白な肌と真っ黒な髪。ぷっくりとしたほっぺはピンク色。赤ちゃんなのに睫毛がすごく長くて、きゅっとにぎった手はマシュマロのようで。
かぐや姫みたいだ。
竹の中で光っていたというおとぎ話の中の赤ちゃん。同じ名前なのにやんちゃな従妹との違いを指摘したら喧嘩になったが、この赤ちゃんはまさに竹の中で光輝いていたという姫君そのものに思えた。
「これからよろしくね。可愛がってあげてちょうだい。」
そう言われて、ぼんやりとその子にみとれていた自分ははたと我に返って、何度も頷いた。そして
「マリアンヌねーちゃん!俺、この子嫁さんにする!!そして絶対、絶対、一生大事にするから!!!」
思わず叫んだその言葉に、なぜかしん、と沈黙が降りた。ぱちくり、と目の前の美しい人は目を瞬かせ、後ろで黙って様子を見守っていた御主人はなんだか顔色を変えたようだった。どうしたんだろうか。
と、ぱちり、と赤ちゃんが目を開いた。紫色の綺麗な目。きっとまだ綺麗なものしか見たことがないからだと思うほど、透き通った瞳はこの世のどんな宝石よりも美しく思えた。
と、その目がふる、と揺らいだかと思うと、ぴゃあぁぁぁ、と子猫のような鳴き声があがった。どうやら驚かせてしまったらしい。ごめんね、と言おうとした途端、
「なぁぁぁぁぁあああんたるぅぅう愚かしさぁああああああ!!!!!」
自分の声など比較にならないほどの大音声が響きわたった。
その子が男の子だと知ったのは、それから少したってからだった。
ぱち、と目を覚ますと じり、と鳴りかけた目覚ましを止めた。壁のカレンダーに目をやると、真っ先に今日の日付が目に飛び込んだ。
12月7日。
13年前、ルルーシュに初めて会った日だ。
あの頃7歳の子供だった自分も今年で大学二年になる。毎年一緒に祝っていた誕生日も、これから就職したりするとちょっと難しくなるかもしれない。なんとか時間は作るつもりだけど、新入社員のうちはそうわがままも言えないだろう。
だから今年はささやかなサプライズを仕掛けることにした。
不意打ちに弱いルルーシュは驚くかもしれない。でもきっと喜んでくれるだろう。
よし、と決意を新たにベッドを降りた。
朝日の射し込むキッチンに降りると、ふんわりと味噌汁のいい匂いがする。どうやら今日は和食の日らしい。
「おはよう。」
コンロの前に立つルルーシュに声をかけると、ちら、とこちらを見てぽそりと おはよう、と呟いた。不機嫌な様子に困ったように微笑んで おはようございます、と代わりのように挨拶してくれたのは女中の咲世子だ。この数日ですっかりおなじみになってしまった光景に思わず苦笑が漏れた。
ルルーシュの両親が仕事で海外へと移ることになったのは1年前だ。その話を聞いたときの衝撃は今も覚えている。まさか 行かないで、なんて言えるはずもなく、こうなったら自分も入ったばかりの大学を休学して、海外留学を検討しなくては、なんて真剣に考えていたら、ルルーシュは日本に残る、と言い出した。
ルルーシュを溺愛しているお父さんは当然反対したけれど、ルルーシュの決意は固かった。結局
「じゃあスザク君、ルルーシュをよろしくね」
というお母さんの一言で、ルルーシュは自分の家に居候することになったのだった。
「今お魚を焼いておりますので、お掛けになっていてください。」
「うん。ありがとう咲世子さん。」
そう声をかけるとちら、とこちらを見たルルーシュはしかしじきにそっぽを向いてしまった。いつもなら甲斐甲斐しく食器を出したりしてくれるのに、よほど機嫌が悪いらしい。
それも仕方ないかもしれない。なにしろ最近自分が出かけることが多くて、あまり話もできないでいる状態だ。今年飛び級で一気に高等部に入ったルルーシュはまだ親しい友人もあまりいないようで(なにしろ周りは3つも上なのだし)、寂しいに違いない。それなのに幼なじみの自分さえあまり相手になってやれないのでは、拗ねるのも仕方ない。
「ルルーシュ」
咲世子の隣で味噌汁の鍋に向かっているルルーシュに声をかけると、ぴく、と細い肩がわずかに震えた。
「あのね、今日だけど」
「遅くなるなら夕食は済ませてきてくれてかまわない。俺も図書館に行くから、外で済ませてくる。」
「え?でも」
「夜食が必要なら今のうちに咲世子さんに頼んでおけ。」
とりつく島もないとはこのことだろう。何か言いたげな咲世子に いいんです、という意味で首を振った。
仕方がない。とりあえず、今日までの辛抱だ。
「じゃあバイトに行ってくるね」
朝食を終えると、カバンを手に立ち上がった自分に 行ってらっしゃいませ、と咲世子が頭を下げた。けれどもルルーシュはやっぱり視線を合わせてはくれなかった。
アルバイトを終えると、早くも日が陰りはじめていた。12月に入った街はどこもクリスマスのイルミネーションに彩られている。楽しげな音楽があちこちから聞こえてすっかりお祭りムードだ。
去年の今日は一緒に街のイルミネーションを見に行った。綺麗な紫の目をきらきらさせていたルルーシュは楽しそうで、連れてきてよかった、と嬉しくなった。けれどもすれ違う人達がイルミネーションよりもルルーシュを見るのが最近は気になってしかたがない。
子供の頃からルルーシュはとにかく綺麗で、家も資産家だったから、はっきり言って変な連中がからんでくることなんて珍しくなかった。そいつらを蹴散らすのはいつも自分の役目だったのだ。
「すざくはおれのきしだ。」
きっと母親に教わったのだろう、そう言って無邪気な顔で自分を見上げていた小さなルルーシュ。そんな目を向けられるのが少しだけ辛くなってきたのはいつからだろう。
違うよルルーシュ。本当の騎士は僕みたいに勝手なことを考えたりしないんだよ
ぶんぶん、と頭を振って再び歩き出す。早く行かないと。
今年は準備に手間がかかったせいでルルーシュに寂しい思いをさせてしまった。果たして機嫌を直してくれるだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて見慣れた建物が見えてきた。窓に明かりがついていることを確かめて入口をくぐった。
どうか無事にできあがってますように、と祈りながら。
.....................................................................
久々の更新でございます。
ルル誕記念として前後編でお送りします。
考えてみたらやったことなかった年の差
幼馴染みシリーズ(笑)。
どうなりますやら。
この記事へのコメント
読むだけで、耳に響きますわ。
幼馴染み年の差ニヤニヤです。ヽ(´ー`)ノ
続きが気になる前編ありがとうございます。
考えてみたら初挑戦だなー、ということで。どうなりますやらお楽しみに(^^;