dawn lament

 さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい
 ここでしか見られない世にも珍しい奇跡の数々
 見なきゃ損だよ後悔するよ
 さぁさそこの若旦那 それそこの奥様方
 坊やも嬢ちゃんも寄っといで
 これはこの世の摩訶不思議
 寄ってらっしゃい見てらっしゃい






 その日も一日の「仕事」を終えたスザクはふう、と一つ息をついて固い床の上に腰を下ろした。同じ部屋の中には「仲間」達が同じように壁を背に座り込んだり、擦り切れた毛布にくるまって眠っている者もいる。
 また一日が終わる。先の見えない暗がりを彷徨うような日々がこうして過ぎていく。
 きしむ扉が開き、また一人「仲間」が戻ってきた。よちよちと短い足で歩く様はまるで子供だが自分よりずっと年上だということは知っている。お疲れ、と声をかけたのは全身が獣のような黒い毛に覆われた男。本名は知らない。ここに連れてこられて初めて会ったとき「熊」でいい、と笑っていたけれどその目が少し寂しそうだったのをよく覚えている。
 ここにいるのは皆そういう「普通」から少し離れた者達ばかりだ。侏儒、熊男、腰のところでくっついた双児娘、両性具有、全身を鱗に覆われた少年、角のある男。そして
「ほら、忘れんなよ。」
「あ、ごめん。」
 傍らに置いたままだった厚い手袋を渡される。これが無いと何かの拍子に例の厄介な「力」が出てきてしまう。両手に被せると手首のベルトを固定する。もうこんなことも慣れたものだ。
 明日にはまた別の街へ移動して、そこでまた興行を行うことになっている。見せ物にされることに最初こそ抵抗を覚えたけれど、段々そんな感覚も麻痺してきた。こんな自分達が、他にどこへ行けるだろうか。ここにいる者達は皆そうだ。生まれ持った「普通じゃないこと」の為に親からも捨てられ、行く場所も生きる術も無く。
「そういえば聞いたか?また新入りが来るってさ。」
「へぇ。」
 そんな声が聞こえてきた。珍しいことじゃない。ここでの暮らしは楽ではない。もともと体の弱い者も多いから、こんな暮らしを続けているうちに「欠員」も出てくる。そうすると「主」達はまたあちらこちらからこういう「変わり者」を探してくるのだ。大抵どこも厄介払いとばかりに喜んでくれるから。
「けど、なんか今度は特別だってさ。俺たちとは別に部屋まで用意してやってるらしいぜ。」
「なんだそれ。待遇いいじゃねぇか。」
「結構大枚はたいたって話だぜ。あのケチが。一番の売りにする、って張り切ってんだとさ。」
 それどんな奴だよ、という声があちこちで上がる。珍しいな、と思ったけれど、あまり興味も無かった。
 どうせ何も変わらないのだから。

 
 移動を終え、テントを張り終える頃にはすっかり夜も更けていた。興行は明日からだ。疲れた体を引きずるようにいつものプレハブ小屋に戻ろうとした時、それは聞こえてきた。
 細い、細い声。いや、声と言っていいのかもわからない。耳というより頭に響いてくるような旋律。どこか物悲しい響きに引き寄せられるようにその音を辿る。
 そこには一際大きなテントがあった。見たことが無い。けれども旋律はここから聞こえている。
 そっと中に入ってみる。旋律が近くなる。それに重なるようにこぽこぽ、と何かの泡立つような音が聞こえる。
 カーテンのようにかかった厚い布をめくって、その光景に目を見張った。
 そこにあったのは巨大な水槽だった。こぽこぽ、という音は空気を送るポンプ。青白い光に照らされて水槽に何かが漂っている。ゆらり、と揺れる虹色の鰭。
   人魚。
 それは間違いなく人魚だった。上半身は人間だが、腰から下は鱗と鰭を持つ魚。それがゆらりゆらりと水の中を漂っている。旋律はそこから聞こえていた。人魚が、唄っているのだ。
 思わず一歩を踏み出したとき、人魚が振り向いた。ゆら、と黒い髪の合間から、宝石のような瞳が覗いた。
 その瞬間呼吸することさえ忘れてしまった。
 その人魚は美しかった。白い肌。漆黒の髪。青白く輝く水の中に浮かぶ幻想のように。けれどもその紫紺の瞳はひどく悲しげだった。
 気がつけば足は水槽の方へ向かっていた。人魚はじっとこちらを見ている。
「......君は誰?」
 聞こえるはずも無いのに思わずそう問いかける。すると

   ルルーシュ

「え?」
 思わず辺りを見回した。けれどもこの人魚以外誰もいない。まさか、と水槽を見やる。
「君の名前?ルルーシュっていうの?」
 こく、と人魚は頷いた。
「どうしてこんなところに?もしかして捕まったの?」
 こく、と人魚はもう一度頷く。その目が悲しげに伏せられる。
「ここから出たい?」
 人魚はもう一度頷いた。
「主」が言っていた「新入り」とはきっとルルーシュのことなのだろう。この美しい人魚を自分たちのように見せ物にする気なのだ。
 冗談じゃない、と唐突にそう思った。
 こんなに綺麗なルルーシュを見せ物にするなんて。いや、ただ見せ物にされるだけならまだいい。あちこちを興行して回っていると妙な性癖のある者がいて、「主」に金を渡して一晩「貸し出し」を申し出ることもあるのだ。そうして泣きながら帰ってくる仲間を今まで何度も見てきた。中にはそのまま帰ってこなかった者、殺された者さえいる。
 自分たちは人間じゃないから。道具と同じだから。
 そんなこと許せない。
 水槽に当てた手が、手袋の下で熱を帯びる。いけない、と思ったけれど止められない。
 ルルーシュが驚いたように目を開く。手袋の下で煙が上がり始めた。耐火性の布で作られているはずのそれが炎を吹き上げて落ちる。もう駄目だ。止まらない。
 近くのカーテンを掴んだ。あっけないほど簡単に燃え落ちる。炎がじわじわと辺りに広がっていく。
 これが自分の力。「普通じゃない」証。感情が昂るとこの手は炎を発する。物心ついた時に両親は亡く、この力を恐れた親類は自分をこの見せ物小屋の主に売った。それからずっとここで生きてきた。お前は化物だから、外に出てはいけないのだと言われ続けて。
「おい!何をしてる!」
「やめろスザク!全部燃やす気か!!」
 誰かの声がする。水だ、早く消せ、と叫んでいる。
 全部燃えればいいのに。全部燃えてなくなってしまえば、きっとこの美しい人魚も元の海に帰れるだろう。そこに自分も連れて行ってくれればいいのに。
 こちらを見ているルルーシュの顔がなぜかひどく悲しそうに見えて、安心させたくて笑ってみせた。
 大丈夫だよ 僕が全部燃やしてあげる。そしたら君も海に帰れるよ

   スザク
 
 ルルーシュの声だ。もっと呼んでほしい。もっと声が聞きたい。
 次の瞬間、頭に衝撃を感じると意識は闇に沈むように薄れていった。
 あの悲しい旋律がいつまでも聞こえてくる気がした。





 
 気がつくと、薄暗い小屋の中だった。両手は厚い布に覆われていた。
 仲間達が心配そうに覗き込んでいる。体を起こすと後頭部に鈍い痛みが走った。どうやら殴られて気を失ったようだ。
 馬鹿だな、下手したら殺されてたぞ、と仲間達が口々に言う。頭は痛むけど、確かに命があるだけましだろう。
 例のテントは全焼には至らなかったらしい。全部燃えてしまえば良かったのに。

 外に出るとどうやら夜明けが近いようだった。冷たい空気が心地よかった。
 あの旋律が聞こえる気がする。悲しいほどに美しく透明な歌声。


 ルルーシュ
 約束するよ。いつかきっと、僕が君を海に帰してあげるから。



 封じ込められた指先がまた少し熱を帯びる気がした。








end.






................................................................

.....えーと....某銀玉屋のCM見たらなぜか....
アンダーグラウンドな舞台だからちょっと難しいかなぁ。
ま、一応今回はここまで。




 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 18

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた
面白い 面白い 面白い 面白い
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

2009年11月06日 12:35
えーと、これが連載?になる?
突発で終っちゃうの??

昔の映画(随分前だ・・・はは)はこういう人たちが平気で出てましたよね。いまはCGとかメイクだけれど。
りら
2009年11月06日 19:01
ええ?えええ~!?(汗)
いきなり燃やしちゃうの?人魚歩けないし周りが火の海ってツライのでは。
なんだか思い込み激しそうなスザクさんです。(ストー☆ーになりそうというか…ぼそぼそ)

人魚はSがいっぱいつくお兄様が買いにきそうな…。呼ばれなくても、ルルーシュが関わると出張りそうなんですものあのひと。
雪蘭さま、脳内で出演交渉されてませんか?胡散臭い笑顔で。
つばさ
2009年11月06日 21:04
一つ質問ですが、このルルは男…ですよね?(>_<)
なぜか真っ先にに長い髪の女の人魚ルルを想像してしまいました(笑)
ルルが人魚とかさまになりすぎですねww
きっと幻の海の美女←?現る!!的な^^
雪蘭
2009年11月06日 21:40
.....すんません~~~~~~~~~~~~~
どうも私のまわりには萠えの神と萠えの悪魔がいるようで、神様が「さぁ早く書きなさい」と言ってると横から悪魔が「ほら寄り道しちまいなよ、こんなんあるぜ」とネタを振ってくるんですぅ~~~
>薄荷様
 ....すんません。上記のような次第です。
 昔はこういう人達があちこちにいたんですよねぇ。ベラスケスの絵にも姿があるし。宮廷道化師ならまだしも、こういう場末のとこじゃ、ねぇ。
 ところでお体に気をつけて。おちびさん早く治りますように。
>りら様 
 いつだってノープランが枢木クオリティです(笑)。後先全く考え無し!!!いつだって本能のまま突っ走りますとも。ええ。
 あ.....なんかさっきから頭の隅にあの胡散臭い笑顔がちらつく......
「美しいものを愛でたいというのは自然な欲求だと思わないかい?」とかって....
>つばさ様
 ....いちお男で想像してます。(^^;ま、性別ルルーシュですから。
 他のキャラだと思い浮かばないのになー、何でルルだとこう無理が無いかなー。
 燃える男スザクさんとの運命や如何に。(笑)
 

この記事へのトラックバック

  • 「Another World」目次

    Excerpt: トップへ Weblog: 朱い鳥舞う空 racked: 2009-11-06 07:34
  • これが噂の

    Excerpt: ぽめら様です。買ってまいましたよ。空き時間にちょこちょこ打ってます。なかなかよろしいです。 ただうちのパソは林檎様なので、必ずしも適切な環境ではないのですね。(メーカーは林檎には不対応、とし.. Weblog: 朱い鳥舞う空 racked: 2010-04-12 11:16