celebration-Innocent World extra-


「ミレイちゃん、綺麗。」
 うるっ、と涙の滲んだ目元をハンカチでぬぐったニーナがずれた眼鏡を押し上げた。いや、私達が泣いちゃ駄目でしょ、と苦笑しているのはカレン。そんな旧友の姿に花嫁はくすり、と笑みを漏らした。
「ありがと二人とも、来てくれて。ニーナは研究忙しいんでしょ?」
「ううん。ミレイちゃんこそ呼んでくれてありがとう。」
「何言ってんの。やっぱ友達に祝ってほしいじゃない?こういうのはさ。」
 そう言って今日の主役である花嫁は友人らの肩をぽんぽん、と叩いた。
「...それにしても意外だったわ。会長...ミレイさんとリヴァルがねぇ....」
「ミレイちゃん、後悔しない?」
「んー?そうねぇ。そん時はさっさと離婚してもっといい男探すわよ。」
 あっけらかんと恐ろしいことを口にする新婦に二人は ひく、と顔を強ばらせた。
「...ちょ....それリヴァルには言わない方がいいですよ。」
「あーら平気よぉ。だってもうとっくに言ってあるもの。」
おほほほほほー、と高らかに笑う花嫁の声を聞きながら、二人は気の毒な花婿を思いそっと溜息をついた。
 と、コンコン、と扉を叩く音が軽快に響いた。はぁい、と返事を返せば元婚約者がひょっこりと顔を出した。
「どうもぉ。おや、これはこれは。」
「ロイド博士?」
「おやニーナ君、久しぶり。この前の論文読ませてもらったよ。なかなか面白いね。」
「あ、ありがとうございます。」
「ロイドさん、そんなとこに突っ立ってないで入って下さい!ほら!」
 そんな声とともに入り口のところにいたロイドの肩を押して入ってきたセシルが こんにちは、とにっこり微笑んだ。約1年前に入籍したばかりのこの夫婦の力関係はそれで明白だった。
「まぁミレイさん、とても綺麗。やっぱりウエディングドレスは女の子の夢ね。」
 セシルはどこかうっとりとしたように白いドレスを見やる。今更だから、と式は挙げなかったらしいがセシルとしてはやはり憧れがあったのではないだろうか。
「セシルさんも着ればいいのに。」
「そうですよ。今から式だけでも。」
「そうね。考えてみようかしら?」
「年齢もね。」
 ぽそっ、と呟いたロイドの脇腹に肘鉄が飛んだのは言うまでもない。
 うぐぐ、とうずくまるロイドを他所に やっぱり白よね、でもカラードレスも素敵、と勝手に話を進める彼女達の耳に、ドアを突き抜けるような能天気な声が聞こえた。
「せぇ-んぱぁーい!!なぁーにしてんですかぁ今日の主役がぁ!!!」
 うわ、ちょっと、と慌てる声。何事、と入り口に目を向けると
「ほらほらほら、入った入った!はぁーいお待たせしましたぁ!花婿登場ですよぉ!!」
「わ、ちょ、待てって!わ!!」
 ばん、とドアを壊す勢いで入ってきたのは派手なプリントのスーツが妙にミスマッチな金髪の青年と、彼に押されて転がり込んだ白いスーツの青年。一体どちらが花婿か、事情を知らない人が見たら一瞬判断を迷っただろう。
「....やっぱりあんたねジノ。」
「よ、久しぶりカレン。おお先輩!今日はまた一段とお美しい!!」
「久しぶりねジノ。ありがと、嬉しいわ。」
「いえいえ。それにしてもリヴァル先輩が羨ましいですよ。こんな美しい女性をパートナーにできるなんて。」
「あら、今からでも遅くないわよ。立候補する?」
「ちょ、ちょっと待ったぁあ!!」
 ようやくして身を起こした花婿は、慌てて自分より頭一つ二つ大きい後輩の前に立ちはだかった。
「は、花婿は俺だからな!わかってんだろうな!?」
「はいはい。わかってますって。」
 あはは、と笑いながらひらひらと手を振るジノを必死に睨みつけるリヴァルに、ひそっ、とロイドが囁いた。
「....リヴァル君。騎士の間では意中のご婦人を巡って決闘なんて、昔は珍しくなかったんだよ。」
 元貴族の言葉にびく、と花婿が肩を震わせる。
「どうするぅ?ここで彼が彼女の為に君に決闘申し込む、なんて言ったら。」
 ロイドの言葉を受けて に、とジノが笑う。まがりなりにも相手は元ラウンズ。ブリタニア最強の騎士の一人だ。勝ち目などあるはずが無い。だがしかし。
「う...受けて立とうじゃないですかぁ!!男リヴァル、ミ...ミレイのためなら命だって何だって惜しくありませんよ!!」
 ばん、と胸を叩く花婿に おおー、と喝采が上がる。もっとも当の花婿はむせて咳き込んでいたが。
「じゃ、これは果たし状ってことで。」
「え!!??」
 ジノが懐から取り出した封筒にリヴァルが顔色を変えた。が、じきに ぶ、とジノが吹き出した。
「なーんて。皇帝陛下からお祝いのお手紙ですよ。お二人宛です。」
「ナナちゃんから?」
 思わず昔の呼び名が口をついて出た。どうぞ、と差し出された瀟洒な封筒に書かれた宛名は見覚えのある筆跡。ブリタニア皇帝から個人的にお祝いを頂けるとは名誉ですねぇ、と冗談めかしたロイドの言葉に思わず苦笑が漏れた。
 手紙には二人への素直な祝福と感謝の言葉が綴られていた。皇帝という地位にあっても、彼女は昔から何も変わっていないのだと安堵する。あまり会うこともできないけれど、今でも大切な妹のような存在だということは変わらない。何はともあれありがたく祝福を受け取ることにする。
「ナナちゃん元気?忙しいんでしょ?」
「ええ、頑張ってらっしゃいますよ。本当は直接お二人にお祝いを言いに来たかったそうですけど。」
「そう...」
 あれから7年あまり。いつも兄に守られていた車椅子の少女は今や自分の足で立ち上がり、美しき賢帝として世界中にその存在を知られる身となった。彼女の手で軍事大国の代名詞のようだったブリタニアは福祉先進国に生まれ変わり、その政策に倣う国も多い。自ら養護施設や病院に慰問する彼女の姿はメディアでもしばしば取り上げられ、慈愛の皇帝の名は平和の象徴のようになっていた。
   これもあんたの計算通りってわけ?
 今はもういない彼女の兄に、胸の中で問いかけてみる。「なんのことですか?会長。」と皮肉げに笑う顔が昔のまま思いだされて、なんだか目元が熱くなってしまう。いけないいけない、と ぎゅっ、とつぶった目を開けると、目の前にずい、とオレンジ色の塊が突き出されてぎょっとすることになった。
「.....え?」
「お土産。」
「あ....ありがと。アーニャ。」
 目の前に突き出された大きな蜜柑を受け取ると淡紅色の髪の後輩は少し日焼けした顔にほのかな笑みを浮かべた。いつの間にやってきたのか、見ればその場の全員の手に同じ蜜柑がある。
「それと、これ受付で預かった。」
 はい、と彼女が差し出したのは一通の手紙。会場に届いたものらしい。宛名は新郎新婦の名になっている。どうやら日にちを指定して投函されたもののようだ。
「誰から?」
「差出人は....なんだろ。『古い友人より』?」
 思わず全員が互いの顔を見やる。アッシュフォード学園の関係者だろうか。
「な....なんか怪しくない?」
「ば、爆発したり、しないよね?」
「それとも先輩の昔の恋人からとか!?」
「あはぁ。ある意味爆弾より怖いねぇ。」
「とにかく、あけてごらんなさい。」 
促されるまま封を切れば、中には何の飾りも罫線も無いごくシンプルな便箋が2枚。二人分の筆跡でそれぞれ短いメッセージが綴られていた。訝しげに覗き込む二人がはっとしたように目を開く。
「....なに?」
「読んでみて下さいよ。なんて?」
 顔を見合わせ、ミレイが手紙を読み上げる。
「『新婦へ  ご結婚おめでとうございます。夫君の操縦はお任せいたします。ただしくれぐれも家庭内での無茶なイベントはお控え下さい。後始末は出来ません。』.....」
「.....」
「....やっぱアッシュフォード学園の卒業生...?」
「それから?」
「...『新郎へ  まさかお前がクイーンにチェックをかけるとは予想外だった。だが油断するなよ。お前はいつも詰めが甘いんだ。』.....」
「.......」
「....もう一枚は?」
「....『新郎へ  おめでとう。年上の奥さんは金のわらじを履いても探せって言うからね。ちょっと尻に敷かれるぐらいが上手くいくよ。』」
「.......」
「...また古いこと言うわね....」
「わらじって何だ?庶民の服か?」
「続きは?」
「『新婦へ  結婚おめでとうございます。僕たちの分も可愛いお子さんをたくさんつくって下さいね。賑やかな家庭になることを祈ってます。』....」
「ちょ、誰それ!?」
「気の早い....」
「いや、ていうか.....『僕たちの分も』??」
 一同が首を傾げる中、ロイドが あはははは、と笑うのをセシルが小突く。花婿は手紙とそれを手にしたまま沈黙している花嫁を戸惑いながら交互に見やった。
「....あのさ、これ....ひょっとして....」
「んー?そうね。そうかも。」
「で、でも、.....あいつら.....」
「そうね。.....ま、どっかから送ってくれたんじゃないの?」
 何年か前、偶然会ったカレンが興奮したように あの二人を見た、追いかけたけど逃げられた、と話していたのを思い出す。その時は まさか、と思ったのだけれど。
   まったく。うちの副会長と書記は相変わらずのようね。
 と、コンコン、と控え目なノックの音が聞こえ、会場の担当者が そろそろですよ、と顔を出した。それじゃあ、と全員が動き出す。
「はい花婿さん。花嫁さんをよろしく!」
 どん、と押し出されつんのめるように花嫁の前に立った花婿は慌てて居住まいを正すと、こほん、と一つ咳払いをする。
「....その。そんじゃ、....行こうか。」
「ええ。」
 差し出される手に花嫁が自身の手を預ける。古い友人からの祝福の便りを手に、新郎新婦はゆっくりと歩き出した。






「.....ロイドに聞いたぞ。お前、何書いてんだ!!」
「え?普通のお祝いだよ?」
「『僕たちの分もお子さんを』ってのはなんだ!!!!」
「だって、ルルーシュ子供産めないじゃない。僕たち二人でもこれはちょっと難しいよね。」
「そういう問題じゃなくてだな.....」
「あんなに頑張ってるのにね。つまんないな。」
「馬鹿かお前はぁ!!!」









........................................................................

てなわけで「I.W」turn41から1年後ぐらいの
ある日でした。(大安か友引かね)

あの二人が結婚することはまず無い、とゆー気が
しますけど、ちょっとシチュエーションとして
見てみたかったもので。
カカア天下は間違い無し。







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この記事へのコメント

2009年06月08日 06:01
リヴァルっ!!!!!!!
よくやった!!
プロポーズはどんなだったのか知りたいぞ。

ロイドさんも、何て言ったんだろ・・・。
雪蘭
2009年06月08日 06:18
多分何日か前から周到に計画して一言一句、台詞も考えて暗記して、そのくせ土壇場で全部ふっとんで、「おっ、お、俺がっ、い、いっ、一生幸せにしますからああぁ!!」とか裏返った声でプロポーズしたんでしょう。
ミレイさんはもうその準備の段階でわかってて「いつ言う気かしらねぇ?」と待ってたんではないかと。
ロイドさんはやはり「おぉめでとぉ~~~」かな?
ふるーつ
2009年06月09日 08:37
・・・水を差さずに素直にほのぼのすればいいとは思うんですが一言。
公的に完全に死んだことになっている2人が、あからさまに自分達だとわかる手紙を出すもんかなと。
私の感覚だと、市販のメッセージカードに「from L and S」とかで何となく匂わせるぐらいで済ませそうなんですよね。
まあ、あくまで私のイメージなんですが。
・・つーか、あの二人の結婚って想像できない(笑)
雪蘭
2009年06月09日 20:32
うーん、リアルに考えると難しいでしょうね。
まぁあくまでシチュエーションとして見てみたいな、という妄想の産物ですのでさらっと流して下さいませ。
だいたいあの二人が結婚する辺りが既にIfの世界ですので。

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