White Blessーa sequel ーstage 2

 明かりの消えた部屋はしんと冷えきっていた。ルルーシュがこちらに滞在する間に使っている部屋まではいささか遠かったので、迷った挙句自分の部屋に連れてきた。(ジノあたりにばれたら やましいこと考えたろ、と指摘されそうだが決してそうでは無い。多分。)
 ルルーシュを抱えたまま壁のパネルをなんとか操作すると、空調が作動し始める。あまり大きくない部屋だからすぐに暖まるだろう。
「ほら、着いたよ。.....ね、だから離して」
「やだ」
 ベッドに下ろして横たわらせようとしても、依然しがみついたまま離れようとしないルルーシュはふるふる、と首を振って顔を寄せてくる。言ってることはほとんど駄々っ子に近い。
「あのね、風邪ひくから。言うこと聞かないと襲うよ?」
「いい」
 冗談のつもりがさらりと返されてしまい、絶句する。髪の香りや首筋にかかる吐息を意識すると一気に体温が上昇する気がした。とはいえ酒の勢いで、というのではなけなしの良心が許さない。さっき藤堂には自制しろと言われたばかりだ。
 ああ神様これは一体何の試練ですか、と泣きたい気持ちで窓の外に意識をそらして、気がついた。
「....ねぇルルーシュ。外見て。」
「?」
「ほら。雪。」
 半分ほど開いたカーテンの合間から見える夜空に舞う白い花。それは音も無く、風に踊りながら静かに降り続く。
「綺麗だね。」
「....ああ」
まだどこか茫洋とした目で外を見やるルルーシュの横顔に微かに浮かんだ笑みにほっと息をつく。部屋の明かりを消しているせいか、雪の白い光が窓から差し込んでくるように見える。その静謐さに先程までの喧噪がまるで嘘のように思えた。
「....本当だからね。」
「?」
 なにが、と言うようにこちらを見上げるルルーシュの顔を覗き込んで、言った。
「全部本当だから。台詞なんかじゃなくて。全部。」
ようやく意味が分かったのか、紫玉が大きく開いた。
「全部本当。君が何者でもかまわないってのも、君がいてくれたら何もいらないっていうのも。消えてしまわないでほしいっていうのも。」 
「...スザク」
「...愛してるっていうのも。」
今更驚いたように声も無くこちらを見上げるルルーシュに、さっきまで自分が何言ってたか忘れたんだろうかと何となく可笑しくなった。
「...ね、そこの箱取って。」
「箱?」
 振り向いたルルーシュがベッドサイドに手を伸ばしてその小箱を取ると ほら、と差し出した。開けてみて、と言うと怪訝そうに首を傾げる。
「....今年の君の誕生日会えなかったから。クリスマスと一緒で申し訳ないんだけど。」
今月初めのルルーシュの誕生日はなぜかその前日に遠方への出張を命じられ、台詞だけは忘れるなとカノンに押し付けられた台本を手に断腸の思いで首都を離れた。(どうやらシュナイゼルの陰謀だったらしいと後でわかったが)その後もなんやかんやで結局タイミングを逸していたのだ。
 箱の中から現れた天鵞絨張りの小箱にルルーシュはますます怪訝そうな顔になった。箱を開けて、中に収まったものを見た途端に ぱち、と長い睫毛が音がしそうな勢いで瞬いた。
「.......」
「驚いた?」
「.......」
「....まぁその....一応、ね?」
 あまりのリアクションの無さにさすがに心配になって顔を覗き込むと、ちら、とこちらを見たルルーシュがぎゅっと眉を寄せた。その顔がなんだか泣きそうに見えた。
「....こういうのは女に渡すものだろ」
「そういうケースもあるってこと。ずっと離れない、って意思表示としては同じでしょ」
「.....馬鹿かお前は」
 聞き慣れた罵倒をなんとなく心地よく感じながら小箱の中のものを取り上げた。手出して、と言うとどこか躊躇いながら白い手が差し出される。銀色の輪はまるで最初からそうあるべきものだったようにぴったりと、細い薬指に収まった。
「....知らないぞ。お前まだ母さんに勝ってないだろ。」
「来年は勝つよ。だから予約。」
「俺はチケットか何かか」
 思わず顔を見合わせて笑うと、そのままなんとなく、唇が重なった。なんだか本当に神様に誓いを立ててるみたいだ、とぼんやり思った。
「....永久に俺の傍にあると誓えるか?」
「喜んで。」
「....では如何なる時でも俺の傍を離れるな。この目の届かぬところで死ぬことは許さん。...目の届くところでもだ。」
「仰せのままに。」
 花のように微笑んだルルーシュが目を閉じる。誘われるままにもう一度唇を重ねると、しなやかな腕が絡み付く。応えて細い体を抱きしめた。
 窓の外ではちらちらと白い雪が舞い続ける。遠くから聖堂の鐘の音が聞こえた気がした。








「っな、何してるこの馬鹿!!!!!」
「へ?」
 突然耳を打った罵声にぼんやりとした意識が揺り起こされる。と、腕の中のほんわりと暖かい気配がするりと逃げだそうとするのに気がついてほとんど無意識にぎゅ、と力を込めた。
「離せこの馬鹿力!!どういうつもりだ!!!」
「え?あれ?」
 気がつくとどうやらもう朝らしく、窓の外が明るい。見れば顔を真っ赤にしたルルーシュがなんとか逃れようとばたばた暴れている。それでようやく、ああそういえば結局あのまま寝てしまったんだ、と思い出した。なんだか惜しいことをしたかな、と ちらりと思った。
「いいかげんにしろ!!!」
 ばふ、と枕を叩き付けられて思わず手を離すと、飛び退くように離れたルルーシュが頭を抱えて倒れ込んだ。どうしたの、と問えば地の底を這うような答えが返った。
「......頭痛い......」
 どうやら二日酔いらしい。やれやれ、と思いながらベッドを降りるとキッチンに向かった。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取って戻ると、ルルーシュはまだ枕の上に突っ伏していた。水持ってきたよ、と言うと重たげに頭を上げて受け取り、口を付けた。
「....それでお前は、なんでここにいる」
 冷たい水のせいで少し頭がはっきりしたのか、ルルーシュはいかにも不機嫌そうにそう尋ねてきた。何となく予想はしていたが溜息は禁じ得なかった。
「なんでって、君が昨夜酔っぱらって僕を離さなかったからここに連れてきたんじゃない。ここ、僕の部屋だし。」 
事実を告げたにも関わらず 心外だ、と言わんばかりに顔をしかめられた。だったら言ってやる。
「あのね。証人もいるからね。ジノにカレンに、ナナリーもいたし。多分アーニャも記録取ってるし。騎士団の人達も....」
列挙してやるとみるみる顔色が変わるのがわかった。さすがにこれ以上苛めるのは可哀想かな、と思って ちら、と見ると苦悩するハムレットよろしく頭を抱え込んだルルーシュがふと何かに気づいたように自分の左手を見ていた。
「......」
 視線が左手の薬指とこちらを交互に走った。青ざめていた顔が今度は一気に赤くなると頭から毛布を被って引っ込んでしまった。呼んでもぽんぽん、と肩(たぶん)を叩いても亀のように出てこない。それなら、と足の方から毛布の中に潜り込んだ。
「ななっ....何してる!!??どっから来るんだ!」
「だって上が駄目なら下しか無いし。」
「だからって....まったく...」
飛び退こうとして結局諦めたのか呆れたのか、単に頭が痛いのか、はぁ、と溜息をついたルルーシュはまた ぽふ、と枕に身を投げた。その横に寝転がると視線がぶつかってなんとなく笑みが漏れた。
「....平和な奴だな」
「うん。ルルーシュがいるから。」
恥ずかしい奴、と思い切り眉を寄せたルルーシュが、左手に視線を落としてぽつりと呟いた。
「....お前のは無いのか」
「買わなかった。さすがに照れくさくて。」
 何を今更、と呆れたように息をついたルルーシュの口元にどこか苦笑めいた笑みが浮かぶ。
「じゃあ今度のお前の誕生日に買ってやる。」
「え?ほんと?」
「それまでに俺がこれを突き返すようなことが無ければな。」
「うん!」
 嬉しくて思わず抱きつくと 痛いだの離れろ馬鹿だの馴染みの罵声が飛んできた。それさえ嬉しくて毛布にくるまってころころ転がっていると、ぱん、という軽い音とともに窓に何かがぶつかった。
「「?」」
 思わず顔を見合わせて、ひとまずベッドを降りると窓を開けた。どうやら昨夜の雪はあれから降り続いていたらしく、辺りはすっかり白一色に染まっている。そしてその中に、ぶんぶん、と威勢良く手を振るジノとまだどこか眠そうなカレン、いつも眠そうなアーニャの姿があった。
「おはよーさーん。昨夜はうまくいったかー?」
「うん。おかげさまで。」
 何がだ、という怒りの声が背中に飛んだがジノには聞こえたかどうか。
「ところで何してんの?こんな朝早くから。」
「そりゃー冬の庶民の娯楽といえば雪合戦だろ!昨日お前達がいなくなってから決まったんだが、雪が積もったらブリタニア対黒の騎士団で雪合戦やろうって。」
「雪合戦?」
「そうよ。だからそこにルルーシュがいるんなら伝えといてね。」
「試合開始は午前11時。」
「というわけでよろしく!」
 それだけを伝えて3人が去ると窓を閉じて振り返った。毛布から顔を出したルルーシュはしばしぽかんとしていたが、合戦、と聞くとちかりと紫玉が輝いた。
「....となるとそれなりの戦略が必要だな。」
「雪合戦だよ?」
「対戦には違いないだろう。」
さてそうなると今の戦力は、とベッドの上に座り込んだルルーシュの頭から二日酔いはきれいに消え去っているようだった。
「僕はどうしたらいい?なんだったら黒の騎士団側につくよ。」
「?」
「離れないって言ったでしょ」
 一瞬かっと顔を赤くしたルルーシュが視線をそらした。
「.....お前はブリタニア側につけ。」
「なんで?」
「お前と組んだら勝つに決まってる。それじゃ面白くない。」
「そっか。」
 それなら納得だ。なにしろ二人で出来ないことなんて無いから。








「さーあ、それでは開始するわよぉ!『第一回 冬だ飛び出せ子供は風の子白い恋人も今日は敵 雪合戦大会』!スタートぉ!!!!』
 なぜかマイク片手に勝手に司会を始めたミレイの号令一過、ざっ、と両陣営に緊張が走った。うおぉぉお、と勇ましいかけ声とともに白い弾丸が宙を飛び交う。
「さぁいよいよ始まりました!ブリタニア対黒の騎士団による世紀の対決!昨日は手を取り合った友好国も一晩明ければ互いに雪玉をぶつけあう敵同士!ああなんという無情!!」
 情感たっぷりに勝手な解説を続けるミレイの傍らではディートハルトが息を弾ませてカメラを回していた。その目前を白い塊はびゅんびゅんと猛烈な勢いで飛来する。
「まずブリタニア勢、ナイトオブラウンズ3名を筆頭にコーネリア殿下率いる国防軍精鋭部隊!片や黒の騎士団、零番隊隊長紅月カレン、総司令黎星刻、総合幕僚長藤堂鏡志朗、いずれ劣らぬ強者ぞろい!さぁ勝負の行方は如何に!!」


『各隊、陣形を崩すな!相手は精鋭部隊、隙は見逃さない!』
「了解!」
『藤堂、壱番隊、四番隊を左右に回せ。相手に囲い込ませるな。』
「わかった。」
『カレン、スザクを押さえろ。お前にしかできない!』
「まかせて!」
『星刻、この間に中央を突け。』
「いいだろう」
『ジェレミア、待機しておけ』
「Yes,yourMajesty!」
 端から見れば雪玉が飛び交うのどかな光景だが、本人達はいたって大真面目であった。
 
 一方ブリタニア本陣。
「ふむ。手堅い構えで来たね。」
「どうなさいます殿下?弟君は本気ですわよ?」
「兄上、私が出ます。」
「いや、君はまだ出るべきではないよコーネリア。...さて、私もたまには相手をしてあげよう。」

 こちらは試合会場特設テント内。
「C.C.さんはよろしかったんですか?参戦なさらないで。」
「寒いからな。まぁ気が向いたら手を貸してやろう。」
「ナナリー様。お汁粉のお味見をお願いします。」
「はい、....まぁ、美味しいです咲世子さん。きっと皆さん喜んで下さいますよ。」


 ちらちらと白い花弁の舞う空には雲の隙間から太陽が時折顔をのぞかせる。
 雪の玉がぱしん、と砕けるたびに上がる歓声。
 トナカイの橇に乗るという聖人が落としていった贈り物のような、平和な冬の一日だった。







              
  end.





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

とゆーわけで、後日談でした。
なんかもう熱にうかされたよーにベタ甘なものが
書きたくなってしまったんで(^^;

ちなみにリングのサイズはセシルさん経由で
ラクシャータに測ってもらいました。
(健康診断の一環、とかゆって。さぞ怪訝な顔
されたでしょーね)








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    Excerpt: ちょ、数増え過ぎたんで目次分けました。 Weblog: 朱い鳥舞う空 racked: 2009-11-01 06:14