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ホワイトデー本番の店は予想通りの賑わいだった。例によってアーニャのブログの常連達が好奇心一杯の顔で「ホワイトデーのお返しはなさったんですか?」と尋ねてきたり、店の窓に妙な連中がびたりと張り付いていたりと、いつものように慌ただしく過ぎていった。しかし。 「......なぁスザク。お前らまた喧嘩したのか?」 「え?い.....いやその、別にそういうわけじゃ」 ボードライダーもといリヴァルが首を傾げる。 今日は一日中あの夢がちらついて、まともにルルーシュの顔を見ることができなかった。忙しかったこともあってろくに話もできてない。おかげで持ってきたケーキもまだ渡せないでいる状態だ。どうしよう。 「お疲れさまーぁ!今日も大繁盛だったみたいじゃない!?」 威勢のいい声とともに控え室に入ってきたのは女王改めミレイだ。これ差し入れね、と有名デリカテッセンの袋をとんとん、と並べていく。 「これはオーナー、いつもありがとうございます。」 「あらお疲れさま。ルルちゃんはまだ厨房?」 続いて控え室に入ってきた魔神いやジェレミアはミレイの問いに はい、と頷いた。 「まぁミレイさん、いらしてたんですね。」 「あらナナリー、お疲れさま。アーニャも座って。皆で食べましょ。」 店の方からやってきた女神と騎士ではなくナナリーとアーニャをミレイが手招く。そしてようやく、厨房の扉が開いてルルーシュが姿を現した。 一瞬視線がぶつかり、どきん、と心臓が音を立てる。思わずそらした視界の端でルルーシュが怪訝そうに眉を寄せている気がする。変な誤解されてないといいけれど。 「お疲れさまルルちゃん。片付けは終わったの?」 「ええ、もう少し.....スザク。ちょっと来てくれないか?」 「え!?」 ちょっと待った、こんな時に二人きりになるなんて。 救いを求めてリヴァルを振り返ると、親愛なる友人は 頑張れ、と背中を押してくる。ナナリーもにっこりと笑って頷いているし、無言のアーニャとジェレミアの視線も 早く行け、と促している。これは腹をくくるしか無い。 どうか理性が保ちますように、と思いつつルルーシュに手招かれるまま厨房に向かった。 厨房は既に片付けも終わっているようですっきりとしていた。窓から見える店舗の方も明かりが消えている。自分たち以外は誰もいない静かな室内に心臓の音がやけに大きく響く気がする。 「え....えと、なに?何か手伝うことある?」 「いや。今日はもう終わりだ。」 「あ...そ、そう...」 控え室の方からは普通の話し声が微かに聞こえるばかり。この前のような奇声の一つも聞こえたら逃げることが出来るのに。どうしてああいうことは起きてほしくないときばかり起きるのだろう。こんなことならセシルから差し入れの一つももらってくるんだった。 「スザク」 「は、はい!?」 思わずびくり、と跳び上がってしまった。明らかに挙動不審だ。ルルーシュの訝るような視線が向けられているのが見なくてもわかる。 「.......お前今日はおかしいぞ。何があった?」 「べ....別に何も.....」 「何か用事でもあったのか?」 「そ...そういうわけじゃ.....」 と、ふわ、といい香りが鼻腔をくすぐった。ルルーシュが間を詰めてきたのだ。まずい。 思わず一歩後じさる。するとルルーシュがまた近付いてくる。また一歩、後じさる。 「.........何故逃げる。」 「逃げ、てるんじゃなくて....」 この理性との戦いをどう説明したものか。 「!?」 突然ばふ、と顔に押し付けられたものがなんなのか、一瞬わからなかった。慌てて手にしてみると、それは小さな紙袋。 「え...えと......?」 一体何事かと手にした物とルルーシュを交互に見やってしまう。むす、とした顔でそっぽを向いたルルーシュが腹立たしそうに言った。 「とりあえずそれだけは渡しとくからな。」 「え?あの?」 なんだろう、と思いつつそっと袋の中をのぞいてみると、可愛い焼き菓子の詰め合わせが入っていた。これはもしかして、 「ひょっとして、ホワイトデーのプレゼント?」 膨れっ面の横顔がほんの少し赤くなった。今日は3月14日だからな、という呟きがその唇から漏れる。 なんだか ぱあぁ、と辺りが明るくなった気がする。嬉しいやらルルーシュが可愛いやらで、思わず ぎゅう、と抱きしめると わ、と驚いたような声が上がった。 「なんだいきなり!」 「ごめん。だって嬉しかったから。」 素直にそう告げると なんなんだ一体、とルルーシュは呆れたような溜息をついた。 「僕も渡したいものがあるんだ。待ってて。」 そう告げて奥の貯蔵庫の隅にある小さい冷蔵庫(こちらはスタッフ用になってる)に走る。ここに来るまでひっくり返さないように、潰さないように、と慎重に運んできた。大丈夫だと思うけど。 「はいこれ。開けてみて。」 「なんだ?」 不思議そうに首を傾げながら蓋を取ったルルーシュの目が驚いたように丸くなった。さすがに意表をつかれたようだ。 「これ、お前が作ったのか?」 「うん。ナナリーに教えてもらったんだ。」 幸いにしてケーキは形を崩すことも無く無事だった。良かった、と思うと思わず安堵の息が漏れた。 「....驚いたな。お前にしては上出来だ。」 「ほんとはイチゴのショートケーキがいいかな、と思ったけど、スポンジ焼くの難しいって聞いたからこっちにしたんだ。」 「賢明だ。」 小さく肩をすくめたルルーシュは ありがとう、と優しく笑ってくれた。それで苦労が全て報われる気がする。そうしたらやっとまともにルルーシュの顔を見ることが出来た。 バレンタインのときはささいな誤解から泣かせてしまったけど、今日は笑ってくれてるのが嬉しい。この笑顔を見る為だったら何だってできる。もしも本当にルルーシュが呪いにかけられるようなことがあったら、どんな試練を乗り越えてもこの笑顔を取り戻してみせるだろう。 「.....僕、昨夜変な夢見ちゃったんだ。」 「夢?」 「うん。君がイチゴになっちゃう夢。」 「俺が?」 「そう。悪い魔法使いの呪いでね。」 なんだそれ、と苦笑するルルーシュをそっと引き寄せる。綺麗な目がぱちり、と瞬いた。 「......それでお前はどうしたんだ?」 「もちろん君を助けたくて頑張ったよ。そしたら優しい女神様が呪いを解く方法を教えてくれたんだ。」 「どんな方法なんだ?」 ほんの少し頬を赤くして、けれどもまっすぐにこちらをみつめたままルルーシュが問いかける。また少し、鼓動が早くなる気がした。 「あのね、君を食べてしまいなさいって。」 「....食べる?」 「うん。」 ぱち、と長い睫毛が動く。あの夢で見たようなほんのり色づいた唇にそっと自分の唇を近づけてみた。 「僕が君を食べたいって言ったら、食べさせてくれる?」 「......食べたいって....」 「無駄だぞ。そいつにそんな遠回しな言い方で通じるものか。」 「あ、やっぱり........って、えぇ!!??」 甘い空気をざくりと裂くような声に振り向くと、そこにはもうお目にかかることはないと思っていた人物がいた。 「ま....魔女!?」 思わずルルーシュを抱きしめて飛びのいた。いつの間に近付いていたのか、そこにいたのはあの夢に出てきた魔女だったのだ。 「なんだいきなり。ここのバイトは客に対する態度がなってないな。」 間違いない。この偉そうな口調、金色の目。やっぱりあれは夢じゃなかったのか。 「.....今日は何の用だ。C.C.」 「へ?」 はぁ、と呆れたように息をつくルルーシュと ふん、と顎を反らす魔女を交互に見やった。ルルーシュは彼女を知ってるんだろうか? 「.......誰?」 呆然としつつそう尋ねると、魔女はますます呆れたように大仰な溜息をついた。 「お前とは初対面だな。私はマルグリット・ルイーズ・ベル・レティシア・ド・クリスチーヌ・ラ・ブリュメール・デラ・コクトー。C.C.でいいぞ。」 「....えっと....?」 どこにCが入ってたかな。 「真に受けるな。....今日はなんだ、C.C.」 「またご機嫌斜めだな。邪魔者は早く退散しろと?」 「うるさい!早く言え!!」 どうやら知り合いらしいけど、どういう関係だろう。なんだか随分親しいようだ。 魔女はくすくすと笑いながら ほら、となにかを差し出した。それは一枚のDVD。 「シャルルからの愛を込めたメッセージだ。たまには顔を見せてやれ。お前に会いたいと泣かれて鬱陶しい。」 シャルル?愛!!?? 「ああ、そういえばバレンタインのお返しを送ったと言ってたぞ。届いてないか?」 お返し!?そういえば何か大きな箱が届いてたけど、バレンタインの、お返し!? 「!?」 思わず がし、とルルーシュの肩を掴んでしまった。DVDを手にしたルルーシュはきょとん、としている。今すぐそのDVDを廃棄したい。 「....どうした?」 「.........シャルルって誰?」 「は?」 自分でも声のトーンが落ちたのがわかった。目をぱちくりさせているルルーシュの代わりに答えたのは魔女だった。 「なんだお前、シャルル・ジ・ブリタニアといえばこの業界で知らん者はいないぞ。」 「......へ?」 「C.C.!」 余計なことを言うな、とルルーシュが咎めるのもどこ吹く風、と言った様子で魔女は続けた。 「聞いたことぐらいあるだろう。『ブリタニア』といえばスイーツ業界の重鎮だからな。」 「.....『ブリタニア』....?」 そういえばデパ地下とかでもよく見るような。世界中に店舗があって、王室御用達なんかにも選ばれてて、高級品になると小さなチョコレート一個に何千円、とかいう、 「シャルルはその総帥だ。ルルーシュとナナリーの前ではただの馬鹿親父だがな。」 「..............お父さん?」 あれ?え?でも? 「『ランペルージ』は母親の姓だ。こいつの母親は後妻で、まぁ色々あってな。それに何より、こいつが親の七光りを死ぬほど嫌ってな。」 「当たり前だ!!」 憤然とした口調で言い切るルルーシュを思わずぽかん、と見てしまった。まさかそんなことがあったなんて。魔女はそんな自分たちを見やり相変わらずくすくすと楽しげに笑うばかり。 「まぁしかし、今回はなかなか楽しい報告が出来そうだ。最愛の息子に虫がついたと知ったらあの親馬鹿がどんな顔をするやら。」 「...虫」 「お前の仕事と関係ないだろう!!余計なことは伝えないでいい!!」 「そうはいかん。ボスの精神状態の安寧の為に息子達の現状報告というのも秘書の仕事だからな。」 ていうか、余計に精神衛生状態が悪化するんじゃないだろうか。 「はいはいはーい、その辺でストップストぉーップ!休憩にしましょ。」 ふいに控え室に続く扉が開くとミレイが顔を出した。久しぶり、と魔女とも親しげに挨拶を交わしている。後ろからジェレミアやリヴァル、ナナリーもこちらを覗き込んでいる。アーニャはしっかり携帯電話を構えていた。明日のブログはどう更新されるんだろう。 「はいはい、ルルちゃんもスザクも晩ご飯にするからいらっしゃい。あら、そのケーキどうしたの!?ひょっとしてホワイトデーのプレゼント!?」 「そうらしい。しかもこいつ、代わりにルルーシュを食うつもりだったようだぞ。とんだタラシだな。」 げ。 「え!!?」 「なに?」 「えぇぇ!!??」 「まぁ!」 「....記録」 なんてことを言ってくれるんだこの魔女は。 「単なる冗談だろう。人間を食えるものか。」 はぁ、と溜息をついているルルーシュは本当にわかってないようだ。ミレイらの好奇の視線が一瞬、憐憫のそれに変わった。 「前途多難だな。」 ふ、と魔女は金色の目を意地悪く細めて笑った。 後日。 アーニャのブログは再び炎上寸前になり、街の小さなケーキ屋の前には何やら重厚なリムジンがしばしば停まるようになり、更には店の奥から「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんたるぅぅぅうぅぅぅ愚かしさぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」という雄叫びが聞こえる日があったとかどうとか。 end. .......................................................... 14日をオーバーしたけど、一応これは ホワイトデー企画でした。(笑) いや、無駄に楽しかった。 ランペルージ家の事情はまたどこかで。 |
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朱い鳥舞う空 2010/03/18 06:05 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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今回のスザクさんには「メルヘンなの?欲求不満なの?」とツッコまざるをえない…!(笑)しかしナナリーの口から食べて下さい発言をされた時は色々衝撃が激しそうですね、破壊力が…。そしてパパンの出番がついに…!?という所で終了とはー…何処のパラレル世界でもパパンの許可を得るのは大変ですよ、スザクさん。因みに韓国ではブラックデーとかイエローデーとか至極面白い日があるようです(ウィキ参照) |
サトハラ硝 URL 2010/03/18 18:19 |
間違いなくよっきゅーふまんでしょう。若いですから(笑)。恐らくそーいったことはナナリーの方が余程知識豊富だと思います。(ほら、一般に女の子の方がませてるもんですから^^;)次回はパパン登場なるか、な...? |
雪蘭 2010/03/18 21:47 |
わぁーい、パパンきたーーー( ̄∀ ̄)vロールケーキパパ〜ン!! |
りら 2010/03/21 17:01 |
胡散臭いお兄ちゃんもチャラい芸術家肌のお兄ちゃんもいますよー。パパンのDVDにゲスト出演してるかもしれません。無駄にきらきらしつつ。 |
雪蘭 2010/03/21 21:07 |
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